相模川を抑える巨大壁の真実!城山ダムと津久井湖の秘話に迫る
城山 ダムの天端を南北に貫く国道413号を車で走らせると、視界が一気にひらけ、穏やかな水面をたたえる津久井湖と巨大なコンクリートの壁が姿を現す。相模原市緑区に位置するこの場所は、単なる交通の要衝にとどまらず、首都圏の暮らしと安全を人知れず支え続けてきた一大インフラの現場だ。気候変動による豪雨の劇症化が大きな社会課題となっている現在、その存在感と治水機能への注目はかつてないほど高まっている。
相模川の中流域に鎮座する城山 ダムは、1965年の完成以来、半世紀以上にわたって水害との闘いの最前線に立ってきた。現地を歩くと、静まり返った湖畔の風情とは裏腹に、巨大な構造物が放つ圧巻のスケールと緻密な運用技術に誰もが息を飲む。歴史の裏側に秘められた政治家たちのドラマから、絶景のドライブルート、さらには非常時の放流アラートまで、現地取材で見えてきた真実に迫る。
首都圏の水瓶を渡る絶景ドライブ!国道413号から望む津久井湖のパノラマ
ダムの堤頂部がそのまま幹線道路になっている風景は、全国的にも極めて珍しい。津久井湖を臨む国道413号は、湘南方面や八王子方面を結ぶ交通の要衝として日中も多くのトラックや乗用車が交錯する。車窓から眼下に広がるエメラルドグリーンの湖面と、はるか下方に潜む相模川の谷筋。その落差は高所恐怖症でなくとも思わず足がすくむほどのダイナミズムを誇る。
四季折々の表情もこのドライブルートの醍醐味だ。春には湖畔を彩る数千本の桜が水面に映え、秋には丹沢山地の裾野が鮮やかな紅葉に染まる。早朝、まだ交通量が少ない時間帯に天端近くのパーキングに車を止めると、静寂の中で湖面をなでる風の音だけが聞こえてくる。観光客でにぎわう道志みち(国道413号の先)へのアプローチとしても愛されるこのルートだが、その足元が巨大な水没歴史の上に成り立っていることを知るドライバーはそう多くない。
巨大な重力式コンクリートダムの裏側:相模川総合開発事業が築いた水没と復興の歴史
見上げる者を圧倒するその構造は、自重によって水の圧力を支える重力式コンクリートダムだ。堤高75メートル、堤頂長275メートルにおよぶ膨大なコンクリートの塊は、相模川の荒ぶる激流を力ずくでねじ伏せるために設計された。しかし、この巨大建造物の建設には、地域の営みを一変させる苦渋の決断と激しい交渉が不可欠だった。
戦後復興期の激甚な水害対策と京浜工業地帯への利水需要に応えるため、神奈川県が推し進めたのが相模川総合開発事業である。当時、地元農家の反発や土地買収の難航により計画は幾度となく頓挫しかけた。この局面を打ち破った立役者の一人が、当時の県政や地域振興に深く関わった政治家・内田秀五郎ら地元の指導者たちだ。水没予定地に暮らす住民一人ひとりと向き合い、補償交渉と集落の再編に奔走した記録が今も残る。住み慣れた故郷が水底に沈むという痛みを引き換えに、現在の津久井湖と首都圏の安全が築かれたのである。
神奈川県企業庁と国土交通省が担うダブルの役割:治水と水力発電業の最前線
城山ダムの運用において特筆すべきは、治水と利水、そしてエネルギー創出を高次元で両立させている点だ。河川管理を管轄する国土交通省と、施設の維持・発電を担う神奈川県企業庁が綿密に連携し、24時間態勢でダム湖の水位をモニタリングしている。
特に重要な役割を果たしているのが水力発電業だ。城山ダムは、上部にある本沢ダムとの間で水を往復させる純揚水式発電(津久井発電所・城山発電所)の核として機能している。電力需要が急増する時間帯には、一気に水を落としてブレードを回し、大量のクリーンエネルギーを首都圏へ供給する。まさに「巨大な蓄電池」としての顔も併せ持っているのだ。治水と発電という2つの重責を背負い、技術者たちが休むことなく監視を続ける操作室は、まさにインフラの頭脳と言える。
近年注目を集めるインフラツーリズムの穴場:現地独占取材で見えた知られざる見どころ
専門的な構造物として敬遠されがちだったダムが今、社会科見学や観光の目的地として脚光を浴びている。いわゆるインフラツーリズムの波が、ここ城山ダムにも押し寄せているのだ。実際に現地を取材すると、防犯・安全面をクリアした見学エリアには、巨大なクレストゲートを間近で見上げられる隠れたビュースポットが存在する。
ダムファンを虜にする「ダムカード」の配布はもちろん、津久井湖城山公園として整備された周辺施設では、ダムの構造や歴史を学べる展示が充実している。公園の展望台から望むダイナミックな堤体と、その背景に広がる相模原の街並みのコントラストは絶景の一言。休日に家族連れやカメラマンが静かに訪れる穴場スポットとして、コアな人気を獲得しつつある。
豪雨時の緊急放流と安全対策:NHKニュース速報が伝える前に知っておくべき避難の鉄則
しかし、城山ダムの真の姿を知る上で避けて通れないのが、台風や線状降水帯による記録的豪雨時の挙動だ。想定を超える大雨が押し寄せた際、ダムの全壊を防ぐために行われるのが「異常洪水時防災操作(緊急放流)」である。流入してくる過剰な水をそのまま下流へ流すこの操作は、相模川沿岸に一気の増水をもたらす危険を伴うため、極めて緊迫した判断が求められる。
豪雨時には、テレビのNHKニュース速報や自治体の防災行政無線が緊迫した警告音を鳴らす。「城山ダムで緊急放流が開始される見込み」という一報が流れた時点では、すでに川の増水が始まっている可能性が高い。サイレンが鳴り響いたら、相模川の河川敷や低地には絶対に近づかず、速やかに高台へ避難することが鉄則だ。私たちがドライブや観光で親しむ美しい風景の裏には、自然の猛威と隣り合わせの厳酷な現実が存在している。 (出典: 城山 ダム(Yahoo!ニュース))